Q and A

重粒子線治療の特徴

Q1 がん治療に用いられる放射線にはどのような種類がありますか?
Q2 一般の放射線治療との違いは何ですか?
Q3 陽子線との違いは何ですか?

重粒子線治療の現状

Q4 どのような施設で重粒子線治療は行われていますか?
Q5 先進医療とは何ですか?
Q6 適応疾患は何ですか?
Q7 治療期間はどのくらいですか?
Q8 入院は必要ですか?
Q9 費用はどのくらいかかりますか?
Q10 副作用(治療による有害な反応)の心配はありませんか?
Q11 治療の適応にならない場合がありますか?
Q12 治療について具体的に相談したい場合はどうしたらよいですか?
Q13 1回の治療時間はどのくらいですか?
Q14 なぜ、がんの種類により照射回数が異なるのですか?
Q15 治療により痛みや熱さを感じますか?
Q16 治療により頭の髪の毛が抜けることがありますか?
Q17 重粒子線がん治療の流れはどのようなものですか?

重粒子線治療の普及の見通しについて

Q18 将来、国民保険が適応される見通しはありますか?
Q19 群馬大学での治療の準備状況について教えてください。
Q20 群馬大学の重粒子線治療施設には、どのような人材が必要ですか?
Q21 放射線治療の専門家が不足していると聞きますが本当ですか?
Q22 群馬大学は地域におけるがん診療において、どのような役割を担うのでしょうか?
Q1 がん治療に用いられる放射線にはどのような種類がありますか?
一般の放射線治療では、エックス線、ガンマ線、電子線が主に用いられています。これに対して、近年、「粒子線治療」という先端的放射線治療が注目されています。粒子線治療では、電子よりも重い原子核を加速してがん治療に用います。水素原子核(陽子)を加速する場合を陽子線治療、ヘリウム原子より重い原子核を加速する場合を重粒子線治療と呼びます。群馬大学の重粒子線治療は、炭素の原子核(電子をはぎ取られた状態、すなわち、炭素イオンとなっています)を用いるので、炭素イオン線治療とも呼ばれます。
Q2 一般の放射線治療との違いは何ですか?
大きくわけて、がんに対する線量集中性と生物作用が異なります。エックス線、ガンマ線を一方向から照射すると、体表面から数センチの深さで最大の線量になり、その後は深さとともに線量が減少していきます。これに対して、陽子線や重粒子線は体表面付近の線量が小さく、粒子が停止する付近で最も線量が大きくなるという特徴があります(この線量のピークをブラッグピークと呼びます)。粒子が停止する深さは粒子の種類によっても異なりますが、粒子のスピードが速ければ深いところまで届き、スピードが遅ければ浅いところで止まります。この性質を利用して、ブラッグピークをうまくがんの深さや形状に合わせることにより、体の奥にあるがんにだけ線量を集中させることができるのです。つまり、がんに対して強力で、周囲の健康な臓器には優しい治療と言えます。これに加えて、重粒子線の場合では、細胞を死滅させる生物作用にも優れるという利点を有しており、一般の放射線には抵抗性を示すがんに対しても有効です。
Q3 陽子線との違いは何ですか?
陽子線ががん細胞を死滅させる能力はエックス線など従来の放射線と同じですが、重粒子線はエックス線や陽子線に比べて、細胞を死滅させる生物作用が優れています。分裂を繰り返すがん細胞に対して、分裂周期や細胞周辺の酸素濃度によってエックス線の効果が弱まることがありますが、重粒子線ではそのような影響をあまり受けないことがわかっています。また、重粒子線は細胞のDNAを直接切断するため、深い傷を負ったがん細胞は回復しにくいことがわかっています。重粒子線の生物作用は、炭素イオン線の場合、エックス線に比べて2-3倍強いと考えられており、これまで放射線治療に抵抗性のがんに対しても有効と言えます。がんに対する線量集中性に優れる点は重粒子線と陽子線で共通ですが、詳しくみると、物質内をまっすぐに進む能力は重粒子線(炭素イオン線)の方が優れているため、深い所では重粒子線の方が陽子線よりもシャープな治療が可能です。一方、重粒子線では、陽子線と比べてピークより深い部分で若干線量が大きくなります。
Q4 どのような施設で重粒子線治療は行われていますか?
現在、炭素イオンを用いた重粒子線治療は、千葉市にある放射線医学総合研究所重粒子医科学センターと兵庫県の兵庫県立粒子線医療センターで先進医療の認可を受けて行われています。また、海外では、ドイツのダルムシュタットにある国立重イオン研究所で試験的に行われています。中でも、この治療のパイオニアである放射線医学総合研究所では、平成6年6月から平成21年2月までに4500名を超える患者の治療を行っています。
Q5 先進医療とは何ですか?
先進医療とは、新しい医療技術の出現や医療に対するニーズの多様化に対応して、先進的な医療技術と一般の保険診療の調整を図る趣旨のもと「特定承認保険医療機関」で実施することが許された医療のことです。これは、高度な技術を持つ医療スタッフと十分な施設や設備を持つ大学病院や専門病院などの医療機関で行われています。放射線医学総合研究所では、多くの疾患で本治療の安全性や有効性が明らかとなった結果、平成15年11月に「固形がんに対する重粒子線治療」が高度先進医療(現在の先進医療)として厚生労働省に認可されました。
Q6 適応疾患は何ですか?
重粒子線治療の適応となるがんは、治療施設ごとに定められています。病状の進行度に基づき治療法が異なる場合もあるため、適応の判断に際しては治療施設の担当医の診察を受ける必要があります。参考までに、放射線医学総合研究所におけるこれまでの治療の結果、1)疾患部位としては、頭頸部(眼を含む)、頭蓋底、肺、肝臓、前立腺、骨・軟部、直腸癌術後骨盤内再発に対して有効、2)一般の放射線に抵抗性の組織型である腺癌系(高分化型腺癌、腺様嚢胞癌、肝細胞癌など)や肉腫系(骨肉腫、軟骨肉腫、悪性黒色腫など)にも効果が高い、といったことが明らかにされてきました。
Q7 治療期間はどのくらいですか?
重粒子線治療では、がんに対して致死効果の高い放射線を集中して投与することが出来るため、1回あたりの照射線量を高くしてその分照射回数を減らすことが可能です。このような短期照射は重粒子線治療の特徴の1つとなっています。放射線医学総合研究所によれば、全患者における治療期間の平均は3週間であり、一般の放射線治療(6-7週間)に比べて格段に短くなっています。特に、肺や肝臓は1-2回/1-2日の超短期照射が可能で、子宮では5週間、頭頸部、骨軟部、前立腺では4週間の照射となっています。このことは、患者様にとっては社会復帰が早期に可能であり、治療施設にとっては多くの患者様の治療が行えるという利点につながります。
Q8 入院は必要ですか?
本来、重粒子線治療では身体的負担が非常に軽く、全身状態が良好であれば外来通院でも行うことが出来ます。家庭や仕事への影響を少なくできる、Quality of life (生活の質)の高い治療法であると言えます。しかし、治療する施設の状況や担当医師の判断により、入院をお願いする場合があります。
Q9 費用はどのくらいかかりますか?
現在国内で稼働している2施設では、重粒子線がん治療費用は300万円程度で、先進医療として認められています。群馬大学においても同内容での治療が予定されています。先進医療の費用は全額自己負担となり、健康保険や高額診療費制度による助成は利用できません。ただし通常の治療と共通する部分(診察、検査、入院、薬など)の費用については健康保険などが適用されます。 費用

任意加入の民間医療保険に加入されている方は、通院や入院に応じた給付が保険会社から受けられます。一部のがん保険など、民間医療保険の特約によっては、高度先進医療に対して費用の全額または一部が給付される場合があります。また、一部の疾患については「臨床試験」として自己負担なしで治療を行っているものもあります。

Q10 副作用(治療による有害な反応)の心配はありませんか?
重粒子線がん治療では、腫瘍の位置を高精度にねらっており、がんを含む限られた範囲に必要な量だけ照射することができるため、一般の放射線治療に比べ、かなり副作用は軽くなっています。ただ、副作用が全くないとはいえません。がんの部位、照射の方向、投与する照射量によって副作用の症状は異なります。また同じ様な治療計画でも、副作用の現れ方には個人差があることも判ってきました。このようなことをふまえ、治療を決める前のインフォームドコンセントでは、医師から起こりうる副作用や副作用が起こった場合の対処法などについて詳しく書面で説明し、患者様によく理解していただくようにしています。
Q11 治療の適応にならない場合がありますか?
重粒子線治療は、広範な遠隔転移を有する場合には適応となりません。その他、一般的には、血液のがん、胃や大腸のがん(原発部位)、以前同じ場所に放射線治療を受けたことがある場合、すでに治療法が確立されているがんなどでは、重粒子線治療は適応になりません。詳しくは、治療施設の担当医師にお尋ねください。
Q12 治療について具体的に相談したい場合はどうしたらよいですか?
まずは、主治医の先生にご相談されることをおすすめします。また、群馬大学医学部附属病院でも、重粒子線医学センター・外来を開設し、重粒子線治療を希望される患者さんへの診療を行っております。重粒子線治療を希望される多くの患者さんに対して、より適切にかつ円滑な診療を行うために、群馬大学・重粒子線医学センターでの初回の外来診療は、完全予約制で、医療機関(群馬大学医学部附属病院を含む)からの予約のみの対応とさせていただいております。詳しくは、群馬大学医学部附属病院のホームページ内「重粒子線治療のご案内」で、手続きの流れについて説明がありますので、そちらをご覧ください。
Q13 1回の治療時間はどのくらいですか?
1回の治療で、実際に照射を行なう時間は1-2分間以内が多いです。ただし、正確に病巣部に重粒子線を照射するためには、照射前の位置合わせに多少の時間がかかり、この間患者様は治療ベッド上で横になっている必要があります。治療する部位にもよりますが、治療室に入ってから出るまでの時間は約20~60分です。
Q14 なぜ、がんの種類により照射回数が異なるのですか?
重粒子線治療では、1回から20回程度まで様々な治療回数で重粒子線治療を行っています。重粒子線治療では、がんだけでなく、がんに近接した健康な臓器に照射される線量も考慮してこれらの治療回数を決めています。例えば、放射線医学総合研究所では、臓器の末梢側に発生した肺癌や肝細胞癌では、それぞれ1回、2回の重粒子線治療が行われています。一方、神経や消化管などに接することの多い腹部・骨盤や頭頸部では、16回~20回の治療が行われることがあります。
Q15 治療により痛みや熱さを感じますか?
いいえ。重粒子線だけでなく他の放射線も含めて、照射そのもので痛みや熱さを感じることはありません。ただし、照射される部位が皮膚や粘膜の場合には炎症を起こして一時的にヒリヒリとし、熱感を生じることがあります。これらは薬の投与により改善し、治療終了後まもなく軽快します。
Q16 治療により頭の髪の毛が抜けることがありますか?
いいえ。放射線(重粒子線も含む)の作用は、照射した範囲に限られますので、胸部や腹部の治療では頭髪が抜けることはありません。頭頸部がんの治療で髪の毛が生えているところが放射線の通り道になる場合、その範囲だけ一時的な脱毛を生じる場合はあります。
Q17 重粒子線がん治療の流れはどのようなものですか?
治療の流れは以下のようなものです。この流れは一例であり、実際の治療においては病状により異なる場合があります。 流れ1 流れ2
Q18 将来、国民保険が適応される見通しはありますか?
先進医療が保険適応となるためには、先進医療としての有効性、安全性に加え、一般への普及性、効率性及び技術的成熟度を満たしているかが総合的に判断されます。中でも、普及性の観点からは、全国の国民が平等にその治療を受けられるための地域展開(均てん化)が求められます。
重粒子線がん治療の場合、未だ治療施設が国内各地方へ広く展開している状況ではなく、今後、保険適用に向けて、本治療を行う医療機関が各地域に設置される必要があると思われます。
Q19 群馬大学での治療の準備状況について教えてください。
群馬大学の重粒子線照射施設の建設は、平成22年3月の治療開始を目指して平成19年2月に開始されました。この予定通り、平成22年3月より前立腺癌の患者さんに対して重粒子線治療を開始しました。治療開始当初は、前立腺癌の患者さんに限って重粒子線治療を行い、順次、対象となる疾患を拡大していきます。対象となる疾患については、群馬大学医学部附属病院のホームページ内「重粒子線治療のご案内」で詳しく説明を行っておりますので、そちらをご覧ください。
Q20 群馬大学の重粒子線治療施設には、どのような人材が必要ですか?
重粒子線治療では、高度な治療技術を要するため、以下に挙げるような様々な職種の専門家が必要となります。
・医師(放射線腫瘍医):診察、治療の適応判断、治療計画、治療の評価など。
・看護師:治療を受ける患者様の看護。
・放射線技師:治療に必要な固定具の作成、CT撮影、精密位置決めなど。
・医学物理士:治療計画の基礎となる物理データの取得、治療装置の性能や安全性確認など。
・加速器技術者等:治療装置の運転、保守、管理。治療計画作成の補助作業。装置性能確認作業。治療補助具の精度確認作業。その他。
Q21 放射線治療の専門家が不足していると聞きますが本当ですか?
日本放射線腫瘍学会の定期構造調査によれば、2003年の新規治療患者数は約15万人で1990年の2.4倍でした。その需要は年々増加しており、2015年には36万人に達すると推定されています。これは、放射線治療に携わる専門家の需要がいかに大きいかを示しています。また、重粒子線治療を含む高精度放射線治療の登場により、従来にも増して高度な知識と技術が要求されるようになっています。放射線治療に関わるスタッフの国際比較資料によると、人口100万人あたりの放射線腫瘍医は米国の15.6人に対して日本は3.6人、放射線技師は米国の33.3人に対して日本は11.3人、物理士は米国の9.1人に対して日本は0.3人となっており、明らかに日本の専門家は不足しています。安全で良質な放射線治療を提供するために、これらの専門家の人材育成は我が国の重要な課題になっています。
Q22 群馬大学は地域におけるがん診療において、どのような役割を担うのでしょうか?
群馬大学附属病院は「がん診療連携拠点病院」として、集学的治療(手術・抗がん剤治療・放射線治療等の組み合わせや緩和医療を含む複数診療科間における相互診療支援等)及び各学会の診療ガイドラインに準ずる標準的治療並びに応用的治療を行っています。また、地域の医療機関への診療支援連携の体制を整備しています。現在、腫瘍センターが設置され、これら業務の一層の充実を目指した取り組みが進められています。重粒子線医学研究センターは腫瘍センターと連携をはかり、重粒子線治療の診療体制の確立に努めてまいります。