機構長ごあいさつ
国立大学法人群馬大学
重粒子線医学推進機構長
花屋 実
がん医療においては、生存率の向上のみでなく、QOL(Quality Of Life)を重視した低侵襲がん治療法の確立が喫緊の課題となっています。この中で重粒子線がん治療法は、強力ながん制御能に加えて治療後のQOLが高い最も優れた低侵襲がん治療法の一つであり、国際的にも我が国が世界をリードする数少ない革新的ながん治療法です。
群馬大学はこれまで、我が国の放射線腫瘍学・核医学領域で先導的な役割を果たしてきました。特に、放射線によるがん治療を担う放射線治療医の育成では、本学放射線医学教室の出身者が、全国の放射線治療認定医の約10%を占め、関東地域を中心に多くの放射線治療施設に放射線腫瘍医を輩出しています。こうした、放射線治療の実績を基盤として、群馬大学では、わが国の大学に先駆けて、重粒子線治療施設である重粒子線医学センターを設置し、がんの重粒子線治療を開始しました。
本重粒子線医学研究センターは物理学部門と医学生物学部門からなり、重粒子線細胞応答に関する基礎生物学的研究、新規重粒子線治療技術の開発研究、小型重粒子線治療装置の技術実証の役割を担い、がんに対する重粒子線治療の臨床試験と集学的な重粒子線治療法の開発等多岐にわたる任務を担っています。
重粒子線治療プロジェクトの経過を顧みますと、まず、平成17年6月1日に重粒子線治療プロジェクトの推進と重粒子線医学に関する国際的教育・研究・診療拠点の形成を目指して、群馬大学重粒子線医学研究センターを設立し、群馬県と共同して、重粒子線治療プロジェクトを開始しました。平成20年11月に最新の普及型重粒子線照射施設(重粒子線医学センター)を群馬大学医学部構内に設置し、平成20年10月に重粒子線治療の建屋が完成し、平成21年8月に炭素イオンビームの加速に成功しました。そして、平成22年3月にがんの重粒子線治療を開始し、令和3年3月までに、4,700名を越す治療を完遂しました。
重粒子線医学研究センターは、重粒子線治療の教育研究領域で、日本を代表とする教育研究プロジェクトを推進しています。平成16年度から平成20年度まで文科省21世紀COEプログラム「加速器テクノロジーに よる医学・生物学研究」が採択され、本医学研究センターを中心研究組織として、画期的ながん治療法として注目を集めている重粒子線治療法の物理工学的研究、基礎生物学的研究、並びにこの治療法の新しい展開としての高精度マイクロサージェリー法の開発研究を推進しました。さらに、平成23年~29年度にわたり、文科省の大学院教育リーディングプログラム・オンリーワン型に、「重粒子線医工学連携グローバルリーダー養成プログラム」が採択され、世界の重粒子線医療並びに同医療産業をリードする国際的リーダーの養成を推進しています。文字通り、重粒子線がん医療の教育・研究・診療拠点として国際的人材養成センターの役割も要請されています。
一方、群馬県を中心とする地域医療圏においては重粒子線治療などの最先端治療技術を中核とする「先進的がん包括医療体制」を構築し、増加し続けるがん患者に最適な治療法を提供し、県民および国民福祉に貢献したいと考えています。
機構概要
重粒子線医学研究センター
重粒子線加速器を導入し、基礎/臨床放射線医学研究ならびに重粒子線治療技術の高度化研究開発を推進するとともに、この分野を担う臨床腫瘍医、医学物理士、放射線生物学者等の養成を行うことを目的としています。